- 運送・物流のEBITDA倍率は2.5〜5.0倍、営業権は利益の1〜3年分が実務レンジ
- ドライバーの人数・年齢構成・定着率
- 車両更新負担が大きく、EBITDAが良くてもFCFが薄い会社は倍率が下がる
相場の見方:なぜ「2.5〜5.0倍」なのか
非上場の中小企業は、上場企業の類似会社倍率よりも低い水準で取引されます。株式をすぐに換金できない「非流動性」と、規模が小さいことによる事業リスクが織り込まれるためです。運送・物流の場合、業界の平均的な成長性、参入障壁、属人性の傾向から、EBITDA倍率は2.5〜5.0倍、純資産に上乗せする営業権は実態利益の1〜3年分がレンジになります。
重要なのは、レンジのどこに位置するかは会社ごとの「質」で決まるという点です。同じ営業利益3,000万円でも、下限と上限では株式価値が1.5〜2倍違います。以下の評価ポイントは、その位置を決める要因です。
買い手は誰か
同業の中堅・大手運送会社(ドライバーと車両の確保)、荷主企業(物流内製化)、物流ファンド。買い手の種類によって重視する点が変わるため、「誰に売るか」で価格は変わります。
評価を押し上げるポイント
- ドライバーの人数・年齢構成・定着率。2024年問題以降、ドライバーは最大の資産
- 一般貨物自動車運送事業の許可と営業所・車庫の確保状況
- 荷主の分散と契約条件(運賃改定の交渉履歴)
- 車両の車齢と更新計画。減価償却費が大きいため EBITDA で見ると評価が上がる
ディスカウント要因
- 車両更新負担が大きく、EBITDAが良くてもFCFが薄い会社は倍率が下がる
- 特定荷主への依存(50%超)は解約リスクとして強く減額される
- 労務管理(拘束時間・未払残業)の問題があると簿外債務として引かれる
計算例:運送・物流・売上5.00億円の会社
売上高500,000千円、営業利益22,000千円、減価償却費25,000千円、役員報酬20,000千円(承継後の適正水準12,000千円)、純資産120,000千円、現預金50,000千円、有利子負債150,000千円のモデルケースで試算します。
| 正常収益力の調整 | |
|---|---|
| 営業利益 | 22,000 |
| + 役員報酬の適正化(20,000 − 12,000) | 8,000 |
| 調整後営業利益 | 30,000 |
| + 減価償却費 | 25,000 |
| 調整後EBITDA | 55,000 |
| 純資産+営業権法 | |
| 純資産 120,000 + 調整後営業利益 × 1年 | 150,000 |
| 純資産 120,000 + 調整後営業利益 × 2年 | 180,000 |
| 純資産 120,000 + 調整後営業利益 × 3年 | 210,000 |
| EBITDA倍率法(ネットデット 100,000) | |
| EBITDA × 2.5倍 − ネットデット | 37,500 |
| EBITDA × 3.5倍 − ネットデット | 92,500 |
| EBITDA × 5.0倍 − ネットデット | 175,000 |
この会社の株式価値の目安は 92百万円 〜 1.80億円(各手法の中央値)。役員報酬の適正化だけで調整後利益が8,000千円増え、営業権法では中央値で16,000千円分、価値が上がっています。単位:千円。
売却前にできる3つの準備
- ドライバー一覧(年齢・免許・勤続)と労務管理の記録を整備する
- 車両台帳と更新計画を作り、更新費用を見える化する
- 主要荷主と運賃・契約期間を書面化する
準備には1〜3年かかるものもあります。売るかどうか決めていなくても、いまの評価額と「どの要因で下がっているか」を知ることが、承継の選択肢を広げます。
運送・物流の売却でよくある質問
車両が多く借入も多い運送会社の評価は?
有利子負債は株式価値から引かれますが、減価償却費が大きいためEBITDA倍率法では相応の評価がつきます。ドライバーの確保状況が最重要です。
ドライバー不足で稼働が落ちていても売れますか?
売れます。買い手は自社の荷物を載せる前提で車両と許可・営業所を評価するため、稼働率だけで判断されません。
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