- 株式価値=時価純資産+調整後営業利益×営業権年数
- 年数は業種で1〜7年。中小企業の標準は3年
- 「社長が抜けても利益が何年続くか」が年数の正体。属人性の解消で延びる
年買法の式
株式価値 = 時価純資産 + 調整後営業利益 × 営業権年数
時価純資産は、貸借対照表の純資産を時価に直したものです。調整後営業利益は、役員報酬の適正化や一過性損益の除外を行った「実態の利益」です。営業権年数は、買い手が「利益の何年分までなら、のれん代として払えるか」を表します。
実務では「年買法」「年倍法」と呼ばれ、税引前の営業利益または経常利益を使うのが一般的です。利益に税金を掛けてから年数を掛ける流派もありますが、その場合は年数を長めに取るため、結果は大きく変わりません。
営業権年数の業種別レンジ
年数は業種によって1〜7年の幅があります。ストック性が高く、社長の個人技に依存しにくい業種ほど長く、属人性が高く参入しやすい業種ほど短くなります。
| 業種 | 営業権年数(低〜中〜高) |
|---|---|
| SaaS・ストック型IT | 3〜5〜7年 |
| 調剤薬局/不動産管理 | 3〜4〜5年 |
| 製造業/IT受託/介護/ビルメン | 2〜3〜5年 |
| 卸売/人材サービス | 2〜3〜4年 |
| 建設/運送/小売/飲食/宿泊/専門サービス | 1〜2〜3年 |
「中央値の3年」が中小企業M&Aの標準で、そこから会社の質で上下させます。詳細は業種別相場を参照してください。
年数を上下させる要因
年数を延ばすのは、契約に基づく継続売上(保守契約・顧問契約・管理契約)、許認可や特殊技術による参入障壁、社長以外のキーマンの存在、顧客の分散、成長トレンドです。縮めるのは、社長が営業も技術も握っている状態、上位1社への依存が30%を超えること、設備更新負担、業績の下降です。
買い手の頭の中にあるのは「社長が抜けた後、この利益は何年続くか」という問いです。年数はその答えそのものなので、社長の仕事を幹部に移していく取り組みが、そのまま年数の延長につながります。
計算例
純資産1億5,000万円(土地含み益1,800万円あり)、営業利益2,800万円、役員報酬2,400万円(適正水準1,200万円)、製造業の会社を例にします。
| 簿価純資産 | 150,000 |
| + 土地含み益 | 18,000 |
| 時価純資産 | 168,000 |
| 営業利益 | 28,000 |
| + 役員報酬の適正化 | 12,000 |
| 調整後営業利益 | 40,000 |
| 営業権(× 2年) | 80,000 |
| 営業権(× 3年) | 120,000 |
| 営業権(× 5年) | 200,000 |
| 株式価値(3年の場合) | 288,000 |
単位は千円。年数が2年なら2億4,800万円、5年なら3億6,800万円と、年数だけで1億2,000万円の幅があります。この幅をどう埋めるかが交渉です。
年買法の限界と、他の手法との併用
年買法は直感的で、売り手が納得しやすい一方、買い手側の投資回収の視点が入っていません。そのため実務では、EBITDA倍率法で「買い手が払える上限」を確かめ、DCF法で理論的な裏付けを取ります。3手法が近い値を示せば価格の説得力は高く、大きくずれていれば、どの前提に見解の相違があるかを探るヒントになります。
企業価値シミュレーターでは、この3手法を同時に計算し、年数を変えたときの感応度も確認できます。
よくある質問
営業権年数は税引後利益と税引前利益、どちらに掛けますか?
中小企業M&Aの実務では税引前の営業利益(または経常利益)に2〜5年を掛けるのが一般的です。税引後利益を使う場合は年数を長め(3〜7年)に取るため、結果は概ね同じ範囲に収まります。
赤字の会社の営業権はどうなりますか?
調整後営業利益がマイナスなら営業権はゼロとし、時価純資産を価格の下限とするのが実務慣行です。ただし役員報酬などを調整すると黒字になるケースも多いので、まず正常収益力を確認してください。
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